高齢者を介護する上で知っておきたい介護予防とADLの関係とは?!

介護の現場ではよく耳にするADLと言う言葉を知っていますか?ADLは介護ケアやリハビリテーションの指標として用いられており、家族の介護や看護を行ったり、自分の老後準備を行ったりする場合には、必ず把握しておきたい内容です。ここでは、そんなADLについて説明します。

自立した生活とADLの関係性について

ADL

自立した生活とは

日本は現在高齢化社会を辿っており、高齢者が増えると言われている将来は、要介護者の増加が心配されています。要介護に自分自身がならない為にも、自立した生活を送っていける事が大切で、介護予防の重要性が近年は特に強調されるようになっています。将来に向けた介護予防を図るには、自分の生活機能を高めて維持していく事が必要になります。自立した生活には、身体機能、活動、参加の要素が重要で、これらのバランスが取れている事が大切になります。

高齢者の介護予防の重要性…

介護予防と言うのは、生きていく為に欠かせない生活機能を向上させていく事が予防に繋がり、QOL向上が目的です。自立した生活を自分自身が送っていく為には、心身機能の向上をはじめ、ADLの維持や向上も図ったり、活動性の向上や社会参加を促したりしていきながら、自分で生き甲斐や役割を持って生活していくと言う事が重要になってきます。

ADL:日常生活動作とは

介護・福祉業界では、ADLはよく使用されている言葉です。ADLの正式名称は「Activities of Daily Living」と言い、日本語では「日常生活動作」と言います。ADLは私達人間が日々の日常生活を送っていく為に、共通に繰り返えされる様々な活動の事を指します。本来、リハビリテーションの分野において、患者の機能障害や効果測定を判断する為に開発された指標ですが、昨今では高齢者生活機能を測る為の尺度としても用いられています。

ADLの意味…

ADLの狭義は、在宅生活での歩行、移動、食事、更衣、入浴、排泄、整容等、基本的な身体動作を指しており、BADL:基本的日常生活動作能力と言います。また、ADLの広義は、自立した生活を営むに当たって、より複雑で多くの動作を求められる活動の事を指しており、IADL:手段的日常生活動作能力と言います。

QOL:生活の質とは

QOLとは「Quality of Life」の略で、生活の質と言う意味を指しています。QOLとADLと言うのは、精神的な満足感や充足感を評価する為の概念になります。人間らしい生活をどの程度送る事ができて、本人が生きていく事に生きがいを見出しているか、これらを判断する尺度を表しています。
QOLとADLは、本来、医療現場でよく使用されていた言葉なのですが、介護・福祉業界においてもQOLとADLと言うのは、とても重要な概念であり密接した関係になっています。一昔前の介護現場では、利用者の身体ケアや生活サポート等には、ADLが重視されていましたが、現在は利用者のQOLも大事にする事で精神的な充実が図れ、リハビリ向上に繋がると言う考えになっています。要介護者の意志や自立性等も尊重していく事で、本人が希望する介護の形をリハビリ訓練によって実現する事が、QOL向上に繋がっていくのです。

ADLの指標

自立した生活の基本となる指標がADLです。例えば、患者や利用者の機能障害が改善しても、それが実際の日常生活に結びつかなければ意味がありません。そこで、ADL評価を行い指導していくにあたり、評価・訓練時に発揮される「できるADL」、実生活で実際に発揮している「しているADL」で判断していきます。

できるADLの指標

できるADLを評価する際には、LawtonのADL評価様式、Potvinの模擬的ADL検査を用いて行われます。

・LawtonのADL評価様式
ベッド上動作、車椅子等の用具操作、身の周りの行い、歩行、立ち上がり、昇降と外出、居住状況等が挙げられます。そして、これらを5段階評価で見ていきます。
・Potvinの模擬的ADL検査
模擬的動作の遂行時間を測定します。

しているADLの指標

「しているADL」の指標としては、KatzのADL自立指標、機能的自立度評価法:FIMを用いて行われます。

・KatzのADL自立指標
入浴、更衣、トイレへの移動、移乗、排泄、食事等
・機能的自立度評価法:FIM
セルフケア、排泄、移乗、移動、コミュニケーション、社会的認知について評価等

QOLはADL低下に比例する

QOLとADLと言うのは、深く密接な関係があります。と言うのも、高齢になっていくにつれ運動能力低下や健康状態悪化はどうしても避ける事はできません。さらに、高齢になって、職場を離れたり家族との別離を経験したりし、塞ぎ込んでしまう事もあります。そうなると、次第に家から外に出る事もおっくうになってしまったり、生活自体に刺激がなくなってしまったり、「生きていても意味がない…」と悲観してしまうケースも珍しくありません。その結果、心身の健康とQOLが同時に損なわれてしまう事に繋がる為、ADLを維持すると言う事はQOL向上と深い関わりがあるのです。

QOLを下げる原因…

QOLを下げる原因には、高齢ストレス、自立ストレス、対人ストレスと言うように、複数の要因が挙げられます。

高齢ストレス

高齢になると言う事は、ADL低下なのです。今までのように自分の体が思うように動かない、足元がおぼつかない等、高齢になった実感に対してストレスが溜まり、QOL低下に繋がるのです。他にも、ストレスの要因の一つとして、体の不調や持病で薬に頼らざるを得ない状況等も挙げられます。

自立ストレス

自立ストレスとは、例えば、社会変化に対する不安や、介護を受けなければ生きていけない自分に対する不安等が挙げられます。このように、生きていくと言う事に対して抱く不安感を指しています。自立ストレスが悪化する原因には、周りに不安を相談できる相手がいないと言う事も、不安を大きく募らせる事に繋がっています。

対人ストレス

対人ストレスとは、自分の愚痴や不安を話せる相手がおらず、寂しさを感じる事で溜まっていきます。また、家族や友達が自分の粗探しをしていると思い込む等、人間関係に対する不安を指しています。

このように…

必ずしもADLだけを向上させていけば、介護予防できるとは限りません。たとえADLが低かったとしても、自己実現する事や社会活動へ参加する事は可能であり、QOLとADLは比例するものでもないのです。現在の日本でも、介護やリハビリテーションの領域では、ADLと同時にQOLも向上させる事が大切であると言う考え方に変化しています。

ADLを改善する方法

ADLを改善する方法には、理学療法、作業療法、言語療法と言ったリハビリテーション、福祉用具の活用、介護サービス導入等、色々な方法があります。また、ADL低下の原因に疾患がある場合には、薬物療法等も取り入れながら治療が行われる場合もあります。しかし、ADL改善は特に特別な道具や薬等を用いらなくても、改善や低下予防は可能です。

第一に必要な事…

まず、改善する為に第一に必要なのは、健康的な生活習慣を自分自身に身に付けていく事です。ADL低下を理由に自分の行動を制限せず、普段通りに日常生活をちゃんと送っていくと言う事がADL改善に繋がります。なので、積極的に外に出て沢山色々な人とコミュニケーションを取ったり、社会活動に参加したりする事で、自分の生活の幅が広がりADL予防に繋がっていくのです。

改善・予防に繋がる介護レクリエーション…

介護レクリエーションは、ADL改善に繋がっていく重要な要素の一つになります。介護レクリエーションと言うのは、単なる娯楽や余暇とは全く異なります。グループ参加できる集団レクリエーションをはじめ、本人の趣味嗜好や得意分野等を上手く取り入れて行われる個別レクリエーション、日常生活の中に取り入れる事のできる基礎生活レクリエーション等、色々な手法があります。なので、一人一人の個性や要望を尊重した上で、本人が無理する事なく、楽しくリハビリできるレクリエーションが行われます。